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VRが「教育」の未来を切り拓く

VRを使った海外の教育現場を追う

2017.04.13 | 研究員:富士通株式会社 VR/ARソリューション推進部 部長 畠中靖浩

物理実験「Newton's Park」

物理実験「Newton's Park」

VR元年と言われた2016年。スマホの次に来る画期的なツールとして、PlayStation VRをはじめとし、日本の市場ではゲームやイベントなどエンターテインメントでのトライアル導入が目立っていた。2017年になった今、VR市場も「元年」ではなくツールとして有効な活用法を見出す次のフェーズに入るべく、各業界では試行錯誤が続いている。度々話題に上がるなど、VRの導入分野の拡大に向けた動きは感じられるものの、まだ一般化していないのが現状だ。そこで、海外ではVR導入の動きはどうなっているのか、VR普及の推進を行う富士通の畠中氏に話を伺った。

アメリカの教育現場でのVR導入について

現在、アメリカの教育現場では、約1万台が400学区で導入されているという。教育においてVR業界を牽引しているのは、米zSpace社の「zSpace」である。海外での動きとして、畠中氏はアメリカで実際に導入・活用が広がっている例を紹介してくれた。

畠中氏「アメリカではすでに小学校・中学校など教育分野へのVRの導入が進んでいます。中にはzSpace社が「zSpace Studio」という基盤の上に、追加してきたコンテンツがあります。さらに、物理・電子など専門性の高いアプリもあるのですが、400学区それぞれに属する教員たちがコミュニティを作っており、コンテンツを共有したりカスタマイズしたりして活用を広げています」

zSpace社の「zSpace


コンテンツを見て感じるのは、VRを用いた教育は、学校の試験に向けて教科書をもとにした講義を聞くという、受動的なスタイルではなく、体験型で自ら学びを得ていくスタイルだということだ。

なぜ、アメリカではすでにVRの教育現場への広がりが進んでいるのだろうか。

畠中氏「アメリカでは行政と学区が別になっているため、学区ごとに教育方針を比較的柔軟に設定できるという背景があります」

教育の仕組みが日本と比べ柔軟なため、新しいテクノロジーや取り組みの導入がしやすい環境ができているようだ。日本は現在教育指導要綱が数年先まで決まるため、一度決まってしまったものを変更するのは非常に難しい。VRなど新たなコンテンツを普及させるためには、仕組みを変えるか、学校以外での活用を考えていくことが必要だ。

 

日本での導入はどうなる?

畠中氏は、日本での普及に向けて3040ほどの小中学校に足を運ぶ中でわかってきたことがあるという。

畠中氏zSpaceのコンテンツは、日本の小中学校で行われている教育内容とずれがあると感じています。

例えば、生物の立体図は全体を観察することはできるが解剖はできないので日本のリアルな教育現場で学力向上を目的に使うことを考えると物足りないのです。一方で、物理や電子など専門分野のコンテンツは、重力を変化させたときのものの運動の様子をシュミレーションできたりするものがあるが、これは逆にレベルが高すぎる。レベルにマッチするコンテンツが現在ないという課題があるのです」

VRの教育への導入を考えると、内容が教育を補助したり子どもの能力を伸ばしたりするようなものであることが重要だ。教育方針に合わせてコンテンツを変えていく必要がある。

 

〈今後の展開〉

アフタースクールでの導入の可能性

最近、東京を中心に理科実験教室などの学校の授業外で行うアフタースクールが流行しているそうだ。以前は実験を行うこと自体を楽しむものが多かったが、最近では教育要綱と合った実験を行うことで、受験対策などより結果に繋げる内容のものも増えてきているという。

畠中氏「実験をしてただ『面白い!』と思うだけではなく、学習の本質を知ることによって難関校に合格する能力が身に付けられる、とうたう塾が人気を得てきています。VRはこのように実践を通して学ぶアフタースクールなどから入り、徐々に普及させて行きたいと考えています」

ひと昔前であれば、フナやカエルを使った解剖実験は小学生でも当たり前のように行われていたが、現在小中学校では、解剖などの実験を行わないところも増えているそうだ。倫理観や道徳的な問題から実施できる幅が減りつつある実践型の教育は、VRで代用できる部分が大いにありそうだ。

畠中氏VRは教育との相性が非常に良いです。今後日本での導入を広げるには、日本の教育にあうコンテンツの開発が必要です。これから新たに切り拓いていく分野ですから、教育機関の方や企業様と一緒に作り上げていきたいと考えています」

 

体験レポート「zSpace

今回、アメリカの小中学校で導入されているという「zSpace」を実際に体験させていただいた。コンテンツは理科系のものを中心に複数あるが、人体の仕組みを観察できる「zSpace Studio」と、専門性の高い物理実験をシュミレーションすることができる「Newton's Park」をレポートする。

<人体模型>

zSpace Studio


まず、zSpaceを体験して感じたことは「違和感が少ない」ことだ。

他のVR機器はゴーグル自体に画面がついており、頭に装着して使用するものが多いがこれは画面がグラスと別になっており、その画面上に3Dの人体が浮き上がっている状態になっている。

PCを見ているような感覚で使用できるため、現実世界の延長線上として違和感が少なく受け入れることができるようだ。

全身の血管を観察

3Dで画面上に浮かび上がった人体は、付属のペンを使って解体したり、360度自由自在に回したりすることができる。

今回は、zSpace Studio上にある人体模型を解体し全身に流れる血管を観察した。赤が酸素を含む血液を全身へ運ぶ「動脈」、青が全身から二酸化炭素など不要なものを運び出す「静脈」だ。方向を変えながら観察していくと、動脈と静脈は同じように通っている箇所とどちらか一方が集中している箇所など違いがあることが見えてくる。また、血管の中の弁も観察することが可能だ。

 通常の学校教育では、教科書に全身の血流が図解されており、それを見て覚えることが多いが、自分で動かしながら観察することによって、発見や疑問が自然と生まれてくる。

 <物理実験>

Newton's Park

画面中央に丸いボードがあり、台やボールを配置し実際に動かすことによって、物体の運動をシュミレーションすることができる。さらに地球だけではなく、火星・木星など他の惑星の環境を選ぶことで、重力の違いによる動きをシュミレーションすることも可能だ。


 

緑の線は、物体が動いた軌跡である。軌跡を確認できることによって、物体の動きを可視化し分析することができる。このコンテンツは小・中学生にとっては学校教育と比べ難しく感じるかもしれない。だが、シュミレーションを元に仕組みを理解することは難しくても、まず感覚的に触ってみるとゲーム感覚で「重力の違いで何が起こるのか?」「物はどのように落ちるのか?」などを楽しみながら学ぶことができる。まず興味を引き出すことで、より詳しい仕組みを学ぶきっかけを作れることは学習意欲の向上として重要である。 


編集部の視点

VRの教育への導入は、アメリカとの教育制度の違いやコンテンツの適性など課題となる部分はまだまだ多い。教科書を使い講義を聞くという、受動的な学習スタイルが中心の日本において、実践的・感覚的な学習は強化していくべきことだ。今回の取材・VR体験を通して、VRは現実では不可能なものを可視化することによって、今まで湧いてこなかったような疑問を湧き上がらせるのを体感した。勉強をするというより、自ら知りたくなるのだ。今後コンテンツの改善や開発を行うことによって、子どもの感覚を刺激し潜在能力を高め、教育の可能性を広げるツールとなるだろう。




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当記事の研究員について

DR

富士通株式会社 VR/ARソリューション推進部 部長

畠中靖浩

1990年富士通株式会社入社、ミドルウェアの商品企画・マーケティングを担当。2015年10月よりVR/ARビジネス立ち上げに従事。

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